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KiP・入居者インタビュー Vol.012 Nexuspiral株式会社 増田 直之さん
オリゴ遺伝子編集法(ST法)を活用して、世界から希少疾患で苦しむ人をなくしたい
今回のKiP入居者インタビューはNexuspiral株式会社 増田 直之さんです。ライフサイエンス系のスタートアップを立ち上げた経緯や、KiPの活用方法についてお聞きしました。
増田 直之(ますだ・なおゆき)。創薬化学の研究者として山之内製薬(現在のアステラス製薬)に入社。以後、主に中枢神経に作用する医薬品の創薬研究に従事。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科開設に伴い、特命准教授に就任。全く新しいゲノム編集技術、ST法を開発する研究者・間世田英明先生と組み、2019年にNexuspiral株式会社を設立し代表取締役に就任。世界から希少疾患で苦しむ人をなくすため、ゲノム編集を応用した新たな治療法の開発を目指している。
ーーーどういう経緯でKiPに入居されることになったのでしょうか?
薬会社から転職して神戸大学でスタートアップの支援などをしていたのですが、兵庫県や神戸市とお話する中で、神戸は特に医療産業都市として、医療分野のサポートを熱心にされている印象がありました。ですので自分が起業を志した際、兵庫県に本社とラボを置こうと考えました。
われわれとしては、本社は一人分が働けるスペースがあればよかったので、コスト面や利便性を考えてKiPに入居しました。ちなみに2019年12月にメドテックグランプリKOBEの医療産業都市賞をいただき、その副賞がポートアイランドの計算科学センター駅前のクリエイティブラボ神戸の利用料が半年間無料だったので、ラボはそちらに入居しています。
神戸大学を退職して起業してからは1週間のうち、2日ぐらいはラボにいて、2日ぐらいはKiPにいますね。
ーーーではKiPに入居されてからの増田さんの仕事は研究者というよりも研究者を支える仕事になるのでしょうか。
そうですね、全体統括と事業運営になります。私自身はいま研究しているわけではないので、研究者を支えるためにいろいろなコラボレーションを模索したり、資金を調達したり、事務的なことをしています。
ーーー研究者だった増田さんが、そもそもどういう経緯でスタートアップ企業を立ち上げられたのでしょうか?
製薬会社にいた頃、研究者としてアメリカの子会社に出向していたのですが、そこでのスピード感に感銘を受けてスタートアップ企業に興味をもったのが最初です。ただ、その当時は「スタートアップ企業に入りたい」とは思いましたが、「自分で立ち上げたい」とはぜんぜん考えていませんでした。
その後、現在共同研究者の間世田英明先生に出会ってから、先生がもっているST法という技術が面白くて、私がお手伝いしたいと思って起業の準備をしはじめたのが2016年の冬ぐらいです。知的財産の特許が元々徳島大学にあったので、それらを活用するための調整が必要であり、手探りで2019年に起業しました。
ーーー今後、どういうロードマップを描かれているのでしょうか?
私たちのライフサイエンス系というジャンルは、基本的には売り上げがなかなか上がりにくい形になっています。共同研究による臨床試験を経て、本当に効果があるか、毒性がないかを確認するステージがあり、この時点までは医薬品としては売れないので、規制当局から承認を得て初めて、医薬品になって売り出せるというのが最終的な目標になります。
そこまでの間は基本的な資金は3つですね。1つは出資をしてもらうこと。2つ目は医薬品シーズを開発して、製薬会社さんなどから共同研究費をいただくこと。3つ目は公的な機関の補助金、助成金。この3つでなんとか研究を進めているという状況です。
ーーーその上でKiPを活用して良かった点はありますか?
企業の運営系のセミナーとか、補助金や助成金のセミナーに参加しました。クリエイティブラボ神戸にもいろんなセミナーがあるんですけども、ラボはサイエンスやテクノロジーの話が多いので、KiPでは会社を運営する情報が聞けるのがうれしいですね。
最近ではコロナに関連した助成金の話がなかなかウェブサイトで調べただけでは自分たちが該当するのかどうかよくわからなかったので助かりました。持続化給付金の申請もオンラインでサポートしてもらいました。
ーーーKiPに来られる際、昼食などはどうされているんですか?
西宮に住んでいるんですが、電車で午前中に来ています。このあたりは食べるところが多いですね。ひとつのパターンとしてキッチンカーでお弁当を買って、オフィスで食べることが多いです。もうひとつのパターンとしては、三宮センタープラザ西館にあるアナゴ専門店の大善によく行きます。あのあたりはすごい歴史を感じるお店がたくさんあって良いですね。
ーーーいま実現できていないけれど、将来達成していきたいことはありますか?
ライフサイエンス系のスタートアップいわゆるJカーブと呼ばれる成長曲線の下の部分が深くて、しかも長く、成功する確率も非常に低いように思います。2019年から3年とちょっと経ちましたが、うまくいったとしてもあと数年は時間がかかるだろうと思うんですね。それでも挑戦したいと思ったのは、1つはST法という技術が非常に良い技術だと思っていることです。もう1つは元々製薬会社にいた時に、やっぱり患者さんのためになるような薬を開発したいと思っていたけど、結果としては当時は、私自身が薬をつくることができなかったので、患者さんに薬を届けたい思いがあります。会社のビジョンどおりですが、世界から希少疾患で苦しむ人をなくしたいというのが将来達成したいことです。
取材・文/狩野哲也 撮影/横山宗助